|
アメリカでは犬の死因として癌に次いで、胃捻転・鼓腸症「正式な病名、胃拡張捻転症候群(GDV)」が多くなっています。 あまりにも突然愛犬の命を奪うGDV(胃捻転・鼓腸症)とはどういう病気なのでしょうか。 GDVとは腹部に急激に空気・ガスが溜まり膨張しておきます。 胃拡張の場合、胃は空気で膨張するものの、胃の位置は本来の場所にあります。 捻転を起こした場合、膨張した胃が捻じれるのですが、縦軸方向のねじれである捻転、腹間膜方向のねじれである軸捻、両方を含めて胃捻転と一般には言われております。 しかし、何故、どのようにして起きるかについてはよく知られていません。 昔から言われている仮説・学説は犬がドライフードををたくさん食べ大量の水を飲んだ場合、ドライフードが胃の中で膨張し、そこへ激しい運動をすると、胃の中の内容物が重しのような役目を果たし、ゆさぶられ、捻転が起きるというものです。 一般的にGDVがおきる現象としてこのようによく説明されるものの、この説を裏付ける科学的証拠はありません。 GDVになった犬の場合、ほとんどがドライ・フードを過剰に摂取していたり、激しい運動をしていた訳ではないからです。GDVではショック症状を起こし死に至りますが何故でしょうか。 まず、GDVになると、胃が拡張します。 胃が膨張すると、消化がされなくなります。その結果、通常なら取り除かれる毒素が腸管に付着することになり、この毒素が原因となり腹膜炎などの炎症がおきます。
そして大きく膨張し捻れた腹部は腹部の静脈を圧迫し、その結果、心臓に血が戻りにくくなります。すると今度は心臓から身体の方へ血が送られなくなり、血流が流れなくなるので、組織に血液と酸素がいかなくなります。その事で腹壁を含め急速に組織が破壊され、肝臓、膵臓、小腸も損傷を受けます。 GDVになると犬は不快感を覚え、歩き回ったり、立ったり伏せたりを繰り返したりします。 かなり唾液の分泌もあり、息が荒く、吐く仕草をするものの吐きません。症状が進むと、腹部が膨張します。全ての犬ではありませんが太鼓のように張りつめた状態になります。その後ショック状態になります。(蒼白い歯茎、衰弱、浅い脈、冷たい四肢等) そして昏睡状態に陥り処置しないと死亡します。 残念な事にGDVになった犬の約半分は死亡しています。
抗生物質、不整脈薬もこの段階で投与されることがあります。
胃の減圧をする為、胃チューブの挿管(口からチューブを胃まで挿入)します。これでうまくいけば胃洗浄を行い、胃の中をきれいにします。 胃チューブ挿管が難しい場合、胃穿刺(太い針を腹部に刺して)減圧します。 犬の状態が安定次第、ねじれを直し、壊死した組織を調べて切除し、胃腹壁固定術を行います。 ヨーロッパ、アメリカの数多くの臨床報告から、胃拡張になった犬に対しては、捻転がその時同時に生じていたか否かに関わらず、除圧手術を行った後、可能になった段階で出来るだけ早く胃腹壁固定術を行うべきだという事が示されています。 胃腹壁固定術を行わず、対症療法だけ行った犬の場合、胃捻転の再発率は100%に近いのに対して、胃腹壁固定術を行った犬の場合、再発率は5%〜10%程度となっています。 胃腹壁固定術をした犬の胃は拡張しても捻じれにくくなるのです。
そこで手術中および術後数日間は不整脈があると危険な状態を招きかねないので、不整脈処置もとられます。
生存の確率ですが、膨張の度合い、ショックの度合い、どの位早く処置がとられたか、他の疾病、特に心臓病の有無によって変わってきます。 手術の段階で胃の一部が既に壊死していた場合、生存率は50%になるという報告もあります。 GDVで死亡する犬の約半分は治療、手術をする前に死亡しています。しかし適切な処置、治療をほどこせた犬の場合は生存率が80%になっています。 過去20年間で術後の死亡率は、かって50%以上だったのが、ショック症状の治療が進歩した事、麻酔薬がより安全になった事、手術の技術がよくなった事などから、20%以下に劇的に減少しています。
GDVの危険因子(リスク)が高い犬種の飼い主によっては予防的措置として胃腹壁固定術を受けさせている人もいます。 では、そのようなGDVの危険因子が高い犬とは、どういう犬なのでしょうか。 犬種としては、グレート・デーン、アイリッシュ・セッター、ジャーマン・シェパード、アフガン・ハウンド、秋田犬、ド―ベルマン・ピンシャーなどがなりやすいと言われております。
大型犬の死因としてGDVが上位にあるので、その原因については研究が進んでいると思いがちですが、アメリカでGDVの研究では進んでいると言われているPurdue 大学獣医学部のLarry Glickman博士などその研究者の数は少ないです。 また博士によると、他の研究者は病因ではなく、治療に焦点を当てているとのことです。 GDVに罹りやすい環境や犬の特徴をみるため、博士は5年間に渡り11犬種の2000匹の犬を調査しました。 リスクが高い犬種として知られている、秋田犬、ブラッドハウンド、コリー、グレートデーン、アイリッシュセッター、アイリッシュウルフハウンド、ニュウファンドランド、スタンダードプードル、ロットワイラー、セントバーナード、ワイマラナーの11犬種が調査の対象となりました。 GDVの発症率は大型犬、(成犬時体重 50−99ポンド)と超大型犬(99ポンド以上)とでは余り差がなく、どちらも高いという結果でした。1900匹以上の犬のうち、105匹がGDVになり、死亡率は29%でした。 一番リスクの高かった犬種はグレートデーンで累積的な発症率は15.7%、ブラッドハウンドは8.7%でした。
犬が生きている間に掛かる率を計算するために大型犬の寿命を10年、超大型犬を8年とし、それぞれのGDVのリスクを計算しましたところ、それぞれ23%と26%となりました。グレートデーンの場合は42%にもなったのです。 ということは、グレードデーンの場合、10匹のうち4匹はGDVになるという事で、また、そのうち3分の一は死亡すると言う事です。
しかしGlickman博士によると犬種の大きさだけが発症率に関係しているわけではないという事です。 腹部が深く幅が狭い犬種のほうがリスクが高いという事です。 それは、腹部が深く狭いと、加齢に伴い腹部の靭帯が伸びやすいからです。
小型犬でも狭く深い腹部の犬種はGDVの発症率が高いです。 大型犬ではないのにGDVの発症率が高い犬種はバセットハウンドや同じような体型をしたダックスフントです。
大型犬でもセッター(アイリッシュ、イングリッシュ)とレトリーバー(ゴールデン、ラブラドール)とでは、大きさとしては変わらないのに、発症率がセッターのほうが高い事からもみてとれます。
面白いことに犬種のレベルではGDVの予測指標として犬の性格が主要な予測指標となりました。 10段階評価で、人間に対して攻撃的なのか、おとなしいのか、他犬に対して攻撃的か、おとなしいのか、興奮しやすいか、怖がりか、ハッピーか、知らない人や新しい環境に動揺しやすいかを、調査した犬の飼い主に訊いたのです。
はっきりとした傾向が2つ出ました。 第1に怖がりの犬種ほどGDVのリスクは高く 第2に陽気でおおらかな犬種ほどリスクが低い。 Glickman博士によると犬にかかるストレス自体が有意なのではなく、犬の身体がそのストレスにどう反応するかがポイントで、その反応は性格によって緩和されます。 人間であれ犬であれ、明るい方が不安症よりもストレスの影響を受けにくいです。 ストレスに対する反応の違いは、以下の理由によりGDVのリスクに影響するのかもしれません。
動物はストレス下に置かれると、特定のストレスホルモン反応や神経反応が起きます。 そしてこれらの反応のうち、いくつかは胃の運動に明らかな影響を及ぼします。 怖がりな犬は、陽気でおおらかな犬よりストレスに対する生理的反応が違う場合があり、博士は、この生理学的反応が、胃の捻転に関与しているのではないかと考えています。
あらゆる年齢の犬が調査の対象になりましたが、一般的に、加齢と共にGDVの発病率は上昇しています。
雄のほうが雌より14%高かったものの、性別差は有意ではありませんでした。 去勢・避妊も大きな要因とはなっていませんでした。
ドッグフード ドッグフードも、与えている量、ブランド、原材料、使用保存料、脂肪源、一粒の大きさなどが調査されました。 ペットフードの原材料上位4つの中に脂肪が入っている場合、またはクエン酸が入っているフードを濡らして与えた場合、GDVのリスクが高まる事がわかりました。
調査の結果、食べる速度が速い犬の方がGDVのリスクが高い事が判明しました。 という事は、食餌を食べるのが速い犬の飼い主は、食べるスピードをゆっくりさせる工夫をした方がいいという事になります。例えば、太い大きなチェーンを入れて、食べづらくするなど。 食餌と共に空気を呑み込むことがGDVの原因だとする説がありますが、その事と、早食いとGDVのリスクが高くなることと関係しているのかもしれません。 しかし食事の直後にGDVが起きていない事と、この事とは矛盾します。 何故急速にお腹が膨張するのか。 どうも急性的なものではなく、慢性的に問題があり、空気を呑み込む事が繰り返され、それが犬の気質でさらに酷くなっているのではないかと考えられています。 実際、ヨーロッパで5年前に行われた研究ではGDVになった犬の大半は、嚥下(えんげ)運動に問題がありました。 バリウムで覆ったドッグ・フードを摂取させ、蛍光透視検査で、食べた物が食道を通過する様子を見れば、嚥下運動が出来ているかどうかがわかるので、将来GDVのリスクの高い犬の飼い主はそのような検査を受けさせるようになるかもしれません。 また、ゲップをよくする犬は、そうでない犬に比べリスクが60%高く
遺伝 一等親血縁、つまり遺伝学的に自分と二分の一の遺伝子を共有している関係(親子、兄弟姉妹)にGDVになった犬がいると、リスクは3〜4倍になります。
食器の位置 食器を高い位置にして食餌を与えるとリスクも高まります。 食器の位置を高くすると空気嚥下症(空気を呑みこむため消化管の中に空気が溜まってしまう病気)を誘発する事があるからです。
食餌の頻度 一日一回の食餌より、何回かに分けて食餌を与えた方がリスクが低い事がわかっています。 食餌の量が少ない方が食後の腹部膨張が少ない事と関係しているかもしれません。
以上の研究の結果をまとめるとこうなります。 リスクが高い犬 ・大型犬 ・腹部が狭く深い ・怖がりで不安症 ・食べる速度が速い ・食餌の後、腹部が膨張する ・一等親血縁にGDVになった犬がいる
・ 食前に数時間、特に食後は運動させない。 ・ 早食いをさせない ・ 一日一回ではなく、食事の回数は2回以上にする ・ 食前・食後の一時間は水を与えない。 ・ 食前・食後以外は新鮮な水を常に飲めるようにしておく。 ・ 食餌時はストレスがかかるようにしない。 ・ ドッグ・フードを切り替える場合、徐々にする。 ・ ドライ・フードだけを与えない。 ・ 高タンパクの食餌、特に生肉を与える。 ・ ドライ・フードを与える場合、原材料上位4つの中に脂肪が入ったものは避ける。 ・ ドライ・フードを与える場合、クエン酸が入っているフードは避ける。 ・ ドライ・フードを与える場合、原材料上位4つの中にrenderされたミート・ミールと骨が入ったものを選ぶ。 ・ 出来るだけ炭水化物を減らす。 ・ 高品質の食餌を与える。 ・ 繊維をとらせる。 ・ 酵素製品を食餌に追加する。 ・ ガスの発生を抑制する、ペット用につくられたハーブを入れる。 ・ 胃の膨張があった場合に備え、シメチコン(抗鼓腸剤)を常備しておく。 ・ ビール酵母、アルファルファ、大豆製品は避ける。 ・ 腸内を酸性にする。 ・ ヨーグルトなどで善玉菌を増やす。 ・ ストレスが強くかかるような状態を避ける。 何よりも重要なのは、常に犬の状態を把握し、異変があった時、速やかにわかるようにしておく事です。
GDVは急を要する事態なので、GDVの疑いが少しでもあれば、すぐに獣医に行く事です。 朝まで様子をみよう、という事はしない事。愛犬の腹部が膨張してきて、具合がおかしく、時間の経過と共に悪化するようなら、すぐに獣医師にかかるべきです。
Purdue大学のGDV研究プログラムのDirectorによると、GDVで愛犬を失った飼い主からよく次のような事を聞かされると言っています。 愛犬がおかしいと思い、獣医師のところに急いで連れて行ったものの、‘腹痛でしょう’と言って帰された。 または腹部は膨らんでいるものの、捻じれてはいませんと言われ、腹部にチューブを入れて減圧をしただけで、犬が手術に耐えられないと判断、または手術する設備がない、またはする用意がなかった為、そのまま手術をせずに帰された。 特に夜間は、麻酔の状態の管理、輸液療法、犬の状態を示す重要な症候の監視を適切に行うのに必要な人数がいない場合、そのような事が起こることがあります。
GDVになると、犬は前足を最大限に伸ばして伏せる、いわゆる‘お祈りのポーズ’と言われている姿勢をとったりします それ以外にも症状として以下のものがあります。 ・吐く素振りを見せるものの嘔吐しない。5〜20分間隔で起こる場合がある. ・いつもと様子が違う。 ・かなり落ち着きがない。 ・丸まった姿勢をとる。 ・太鼓のように張った、膨張した腹部。 ・蒼白い歯茎 ・腹部で物を消化するゴボゴボというような音が聞こえない。 ・吐こうとしてゲーゲーする。 ・過度のよだれ、唾液。 ・口のまわりに泡状の粘液または泡状の粘液を吐く。 ・クンクンと鳴く。 ・ソワソワと歩く ・空気を舐める。 ・隠れる場所を探す。 ・自分の腹部をみる。 ・腹部の痛み。 ・横になるのを拒む。 ・食欲減退 ・小石や小枝を食べようとする。 ・過剰に水などを飲む。 ・荒い息使い。 ・浅い呼吸。 ・口腔粘膜が冷たい。 ・衰弱、虚脱、立つことが出来ない、またはハの字で立つ。 ・頻脈 ・弱い脈拍
捻転が生じていなくても胃膨張は命に関わる事態です。 ショック症状に対しては輸液療法が行われ、必要な場合は不整脈治療の薬剤も投与されます。 その後、出来るだけ早い段階で胃腹壁固定術を行います。 術後どのくらい乗り切れるかどうかは、手術前の身体的状態(ショック状態の度合い)手術時の胃の状態(組織がどの程度破壊されてしまっているか)に依ります。 合併症が起きた場合には、術後、数日間は集中監視が必要です。 愛犬がGDVではないかと疑って病院に連れて行ったのに‘たいした事はありません’と獣医に言われた場合、GDVの可能性がない事を確認するため、X線について訊いてみましょう。 胃が膨張していると診断された場合、捻転の有無に関わらず、チューブを挿入して減圧、または腹部に大きな針(トロカール)を刺して減圧します。 犬の状態が不安定で麻酔に耐えられないと判断されない限り、手術を行うべきです。 何らかの理由で獣医師が手術を見送った場合、セカンド・オピニオンを求めましょう。
この事を如実に物語っている飼い主からの手紙があります。
「(前略) 私が飼っていたアイリッシュセッターは、吐こうとするものの、何ももどしませんでした。草かな、鶏の骨かな、と思いながらそのまま散歩を続けました。 彼女はしっぽを振りながら、道行く人に楽しそうに挨拶をしていました。家に帰った後、何度か吐く素振りを見せたので、すぐに獣医に電話をして、吐く素振りをしたが何も出てこなかった事、胴回りがすこし太った気がすることを告げて、病院に駆けつけました。 獣医は愛犬を診て、‘腹痛でしょう’と診断し、その薬を貰いました。 そのまま家に帰り、45分後に庭に出しました。その10分後に見に行った所、腹部が膨張していたので、そのまま抱きかかえて病院に連れて行きましたが、手術台の上で死亡してしまいました。(後略)」
愛犬エリーは16時間の間に2回もGDVをおこし、助かるには手術しかありませんでした。その時エリーは9歳でした。 エリーは手術を受けた後でAKCよりコンパニオン・ドッグのタイトルを獲得しました。その大会では最年長の犬であったので特別賞も受賞しましたし、その大会では4位になりました。 エリーがオビーディエンス(服従)を始めたのは、GDVになった一年半後の11歳の時です。 GDVですべてが終わりになるのではないということを言いたくてこの手紙を書きました。 GDVになってもその後、楽しい犬生を送る事が出来るのです。特別賞さえも受賞する事ができるのです。」
| |||